生成AIに社外秘を入れていい?カメラにシールを貼られていた元研究者が考える「持ち出し」の線引き

はじめに

生成AIを仕事で使うとき、私が入力しないと決めているものがいくつかあります。秘密鍵やパスワードなどの認証情報、クライアントから預かった顧客データや未公開の情報、そして入れていいか確認していない情報です。鍵は、設定を間違えたときのことを考えると別扱いにするのが自然でしたし、預かった情報は、そもそも自分の判断で外に出せるものではありません。何を入れないかの一覧は、後ほど整理して書きます。

ただ、この線を人に説明できる形にしたのは、つい最近です。生成AIは便利で、文章の校正から調べ物まで、仕事で毎日使っています。便利なぶん、入力欄に貼る前に立ち止まる回数は減ります。自分の線を言葉にしておかないと、いつか曖昧になると思いました。

線を説明できる形にしようと考えていて、思い出したのが研究所時代のことです。私は静岡県富士市でWeb制作とシステム開発をしていますが、その前は大手化学メーカーの研究開発部門に7年いました。あの職場では、情報が社外へ出る経路のすべてに、申請か警告か記録がありました。生成AIへの入力は、情報が社外のサーバーへ送られるという点で、あの経路と同じ性質を持っています。違うのは、門が無いことです。

この記事では、工場で情報の持ち出しがどう管理されていたかを出発点に、生成AIに入れてはいけないもの、ツールの学習設定をどこまで信じていいか、そして制作する側として自分が決めたルールを書きます。前回の記事製造業のホームページに技術情報はどこまで載せていい?が「どこまで公開していいか」の線引きなら、今回は「どこまでAIに渡していいか」の線引きです。

この記事のまとめ

  • 工場では、カメラ・USB・社外メール・PCの持ち出しという経路のすべてに、許可・申請・警告・履歴のどれかが付いていた。禁止ではなく、通るときに一度立ち止まる仕組みだった
  • 生成AIへの入力も情報が社外へ出る経路なのに、入力欄には警告も申請も履歴も無い。油断の問題ではなく、門が無いという仕組みの問題
  • 入れてはいけないのは、認証情報、他社から預かった情報、自社の秘匿ノウハウと出願前の技術、そして入れていいか確認していない情報
  • 「学習に使わない設定」は門の一つにはなるが、送信した事実は消えない。設定を確かめたうえで、入れないものは入れない
  • 全面禁止は申請の無い抜け道を生む。工場がそうだったように、許可された経路と、送信前のひと呼吸を用意する

工場では、情報の持ち出しをどう管理していたのか?

私がいた会社では、情報が社外へ出る経路に、必ず何かが付いていました。

携帯電話のカメラが分かりやすい例です。工場や事業所の中で写真を撮るには、社内の人間でも、その工場や管轄する事業所の許可が必要でした。許可を得ていない人や、撮影が認められない場所に入る人は、入場時に携帯電話のカメラ部分にシールを貼られます。退出するときには、そのシールを剥がした痕跡が無いかを確認されました。信用していないわけではありません。写真という経路に、入るときと出るときの門を置いていただけです。

USBメモリは、基本的に使えませんでした。使う必要があるときは、指紋認証やパスワード認証の付いたUSBメモリの使用申請を出し、許可が下りてようやく使えます。しかも、何をいつ移したかの使用履歴は残されます。つまり、使えないのではなく、申請と記録を伴う経路に絞られていたわけです。

社外宛てのメールには、送信しようとすると自動で警告が出ました。宛先が社外であること、添付ファイルが付いていることを、送信前にもう一度見直させるためのステップです。最初は面倒でしたが、やがて「社外に出す前にもう一度見る」という癖として身体に残りました。PCを社外に持ち出すときにも、申請が必要でした。

並べてみると、どの経路も禁止ではありません。許可、申請、警告、履歴のどれかが付いていて、通るときに一度立ち止まる構造になっていました。これを生成AIの入力欄と並べたのが、次の図です。

FOUR GATES, ONE MISSING

工場の持ち出し経路には、すべて門があった

携帯電話のカメラ

事業所の許可が必須。未許可ならシールを貼り、退出時に剥がした痕跡を確認

USBメモリ

原則使用不可。認証付きUSBの使用申請を出し、使用履歴が残る

社外宛てメール

送信前に自動で警告。もう一度見直すステップが挟まる

PCの社外持ち出し

申請が必要

生成AIの入力欄

許可なし。申請なし。警告なし。履歴は自分の画面にしか残らない

情報が社外へ出る経路なのに、ここだけ門が無い

なぜ生成AIへの入力だけ、門が無いのか?

生成AIの入力欄に貼り付けた情報は、自分のPCを離れて、運営会社のサーバーに送られます。社外宛てメールで添付ファイルを送るのと、情報の行き先という意味では同じです。それなのに、入力欄には警告が出ません。申請も要りません。何を送ったかの履歴は、自分の画面のチャット履歴にしか残りません。

なぜ門が無いのか。私は、入力欄が「送信」に見えないからだと考えています。メールには宛先欄があり、送信ボタンがあります。USBメモリは手に持って運びます。どちらも、情報が外へ出る瞬間が目に見えます。生成AIの入力欄は、検索窓やメモ帳に似ていて、文字を打てば返事が返ってきます。その往復のどこにも、社外へ出たという実感がありません。

工場の門が機能していたのは、立ち止まる場所が仕組みとして用意されていたからで、個人の注意力に任せていたわけではありません。生成AIの入力欄に門が無いのも、使う人の油断ではなく、立ち止まる仕組みがまだ無いという話です。だから対処も、気をつけようではなく、仕組みを作るほうに向けます。

生成AIに入れてはいけないものは何か?

研究所の経験と、制作する側になってからの経験を合わせると、入れてはいけないものは4つに整理できます。

1. 認証情報

秘密鍵、パスワード、APIキー、トークン。これらは入れた時点で漏れたものとして扱います。学習に使われるかどうかは関係ありません。送った先で保持され、万一流出すれば、それを使って侵入できるからです。鍵を含む設定ファイルを丸ごと貼る、エラーログを貼ったら中に接続文字列が入っていた、といった形で混ざり込むので、貼る前に目を通す必要があります。

2. 他社から預かった情報

取引先の図面、仕様書、顧客リスト、個人情報、見積や取引条件。自社の判断で出せる情報ではありません。前回の記事で書いた「取引先の情報は自社の秘密ではなく、取引先の秘密」という考え方は、ホームページに載せるときも、AIに渡すときも変わりません。預かった側に「AIに入れていいか」を決める権限は無いと考えるのが、持ち出し管理の基本です。

3. 自社の秘匿ノウハウと、出願前の技術

研究開発の現場では、技術情報は特許で権利化済みのもの、出願前のもの、特許にしない秘匿ノウハウの3階層で扱われていました。出願前の技術は、話した時点で新規性を失いかねないので口外しません。秘匿ノウハウは、社内でも触れる人を限って守ります。この2つは、ホームページに載せないだけでなく、AIにも渡しません。配合、加工条件、治具の構造、工程の核心がここに当たります。

4. 入れていいか、確認していない情報

この4つ目が、実際には一番大きい領域です。社外秘と明示されていなくても、「これを入れていいか」を誰にも確認していない情報は、確認するまで入れません。社外メールの警告が「宛先は本当に正しいか」と毎回聞いてきたのと同じで、分からないものは止める側に置きます。

逆に言うと、公開済みの情報、自分が権利を持つ文章、固有名詞を伏せた一般化した質問は、入れて構いません。「〇〇℃で△△分の熱処理」を聞くのではなく、「この材料の反りを抑える一般的な方法」を聞く。前回の記事で書いた、方法ではなく対応範囲に言い換える作業と、やることは同じです。

「学習に使わない設定」はどこまで信じていいのか?

「学習に使わない設定にしているから大丈夫」という声は、交流会でも聞きます。この設定は、確かに門の一つになります。ただ、どこまでを守ってくれるのかは、ポリシーを読まないと分かりません。AIで口コミを自動作成するツールは規約違反?の記事で、断言できなかった翌日にポリシーを読んだ話を書きましたが、今回も同じことをしました。主要3ツールの公式ページを、2026年10月12日時点で確かめた結果が次の表です。

ツール個人向けプランの扱い法人向け・API
ChatGPT既定では会話が学習に使われる。設定「Improve the model for everyone」をオフにすると、以後の会話は学習に使われない。一時チャットも対象外Business・Enterprise・APIは既定で学習に使われない
Claude設定「Model Improvement」で、学習に使うかを自分で選ぶ。許可すると最長5年、許可しなければ30日の保持Team・Enterprise・APIは既定で学習に使われない
Gemini「Keep Activity」がオンだと、会話は学習と人間のレビューに使われる。Google自身が「機密情報や、レビュー担当者に見られたくない情報は入力しないでください」と明記している法人向けの扱いは本記事では確認していない

表を作って気づいたことが2つあります。1つは、個人向けプランは既定か選択式かの差はあっても、設定を自分で確かめなければ学習に使われうる設計になっていることです。設定画面を一度も開いたことがなければ、まず開く価値があります。もう1つは、Googleが自分のサービスのヘルプページで、機密情報を入力しないよう求めていることです。学習の設定とは別に、人間のレビュー担当者が会話を見る場合があるからです。運営会社自身がそう言っているのなら、使う側がそれより甘い基準を持つ理由はありません。

設定をオフにしても、送信した事実は消えません。ここで見た3つのツールも、不正利用の検知などの目的で、一定期間は入力を保持します。学習に使われないことと、誰にも見られないことは、別の話です。設定は門の一つであって、入れないものは入れないという線引きの代わりにはなりません。

全面禁止は、なぜ逆効果になるのか?

ここまで読むと、社内で生成AIを全面禁止にするのが安全に見えるかもしれません。私は、それは工場のやり方とは違うと考えています。

研究所では、USBメモリは原則使えませんでしたが、認証付きのものを申請すれば使えました。社外メールは警告が出ましたが、送れました。PCも申請すれば持ち出せました。どの経路も、塞いだのではなく、許可された通り道を一本だけ残して、そこに記録と確認を付けたのです。もし本当に塞いでいたら、業務は回らなくなり、人は申請の無い経路を探していたと思います。

生成AIも同じだと考えています。業務で禁止しても、便利さを知った人は個人の端末で使います。そうなると、会社は何が入力されたかを知る手段を失います。工場に倣うなら、業務に使うツールとプランを決め、学習設定を確かめ、入れてはいけないものを紙一枚に書いて、送信前に見直す習慣を作ることになります。なぜ「安全第一」の製造業がWebセキュリティでは後手に回るのか?で書いた、ヒューマンエラーを前提に構造で防ぐという原則そのままです。

制作する側は、何を入れないと決めているのか

人に線引きを勧めている以上、自分の線も書いておきます。この記事を書くにあたって、制作する側として、生成AIに入力しないものを書き出しました。

入力しないもの

  • 秘密鍵、パスワード、APIキー、トークンなどの認証情報
  • クライアントから預かった顧客データ。個人情報、問い合わせの内容、顧客リスト
  • クライアントの未公開情報。公開前のサイト原稿、社外秘の技術情報、見積や取引条件
  • クライアントに入力してよいか確認していない情報

運用

  • 業務に使うツールは、学習に使わない契約か設定のものに限る。個人向けプランを使うときは、学習の設定をオフにしたうえで、固有名詞を伏せる
  • 入力欄に貼る前に、「これは社外メールで送れる内容か」を一度自分に聞く

最後の一行が、社外メールの警告の代わりです。仕組みとしては弱いことを承知しています。それでも、警告の出ない入力欄に、自分で警告を一つ置くことはできます。研究所で身体に残った「社外に出す前にもう一度見る」癖を、入力欄の前でも使うことにしました。

今日からできる3つのこと

1. 使っているツールの学習設定を、今日確かめる

ChatGPTなら「Improve the model for everyone」、Claudeなら「Model Improvement」、Geminiなら「Keep Activity」。設定画面を開き、今どうなっているかを見ます。どうするかはその後で構いません。まず現在地を知ることが先です。

2. 入れないものを、紙一枚に書く

認証情報、他社から預かった情報、自社の秘匿ノウハウと出願前の技術、確認していない情報。この4つを、貴社の言葉に置き換えて書き出してください。細かい規程は要りません。工場の掲示物のように、入力欄の近くに貼れる分量で十分です。

3. 送信前のひと呼吸を、言葉にして決める

「社外メールで送れるか」でも、「取引先の担当者が隣で見ていても貼れるか」でも構いません。入力欄に貼る直前に自分に聞く一言を決めます。

まとめ

  • 工場では、カメラ・USB・社外メール・PCという持ち出しの経路すべてに、許可・申請・警告・履歴が付いていた。禁止ではなく、通るときに立ち止まる仕組みだった
  • 生成AIへの入力も情報が社外へ出る経路だが、入力欄には門が無い。油断ではなく、仕組みの不在
  • 入れてはいけないのは、認証情報、他社から預かった情報、秘匿ノウハウと出願前の技術、確認していない情報の4つ
  • 学習に使わない設定は門の一つだが、送信した事実は消えない。設定を確かめたうえで、入れないものは入れない
  • 全面禁止は申請の無い抜け道を生む。通ってよい経路を決め、送信前のひと呼吸を用意する

カメラにシールを貼られていた頃は、正直に言えば面倒でした。今になって、あの面倒さが何を守っていたのかが分かります。生成AIの入力欄には、まだ誰もシールを貼ってくれません。自分で貼るしかない、というのがこの記事の結論です。

私は静岡県富士市でWeb制作とシステム開発をしています。「社内でAIを使い始めたが、何を入れていいか決めていない」という段階からで構いません。入れないものの一覧を、貴社の業務に合わせて一緒に書き出すところからお手伝いします。お問い合わせからどうぞ。

ContactContact

専門的なお話も、噛み砕かずそのままで。

「ホームページをリニューアルしたい」
「採用のエントリーを増やしたい」
「セキュリティが心配だ」

まずは、お客様の現状をそのままお聞かせください。
理系のバックグラウンドがありますので、無理に平易な言葉に言い換えていただく必要はありません。

未知の分野であっても、技術の概要やポイントを即座にキャッチアップします。

単発のご依頼から、月額のWeb顧問契約まで。
まずはお気軽に、Webの「セカンドオピニオン」としてもご相談ください。

Contact

ご相談・お見積もりは無料です