製造業のホームページに技術情報はどこまで載せていい?特許と社外秘を扱っていた元研究者が考える線引き

はじめに

「技術のことは、社外秘が多くてホームページに書けないんです」

富士市の経営者交流会で製造業の方と話していると、この言葉をよく聞きます。前回の記事製造業のホームページで技術力はどう見せる?発注する側だった技術者が考える伝え方では、技術力の見せ方を書きました。書いているあいだ、頭の片隅にずっとあったのがこの言葉です。見せ方が分かっても、そもそも見せてよいのかが決まらなければ、一文字も書けません。

私は静岡県富士市でWeb制作とシステム開発をしていますが、その前は大手化学メーカーの研究開発部門に7年いました。研究の成果を特許にするか、学会で発表するか、それとも社内に留めるか。その判断に日常的に関わる立場でした。取引先やお客さまに技術を説明する資料を作るときも、どこまで書くかを毎回考えていました。

制作側になった今は、製造業のクライアントから「これは載せられない」と言われる側にいます。この記事では、研究開発の現場で技術情報がどう扱われていたかを出発点に、ホームページに載せてよい情報と載せてはいけない情報の線引きを整理します。先に言っておくと、私が考える線は「秘密っぽいかどうか」ではありません。

この記事のまとめ

  • 研究開発の現場では、技術情報は「特許で権利化済み」「出願前」「特許にしない秘匿ノウハウ」の3階層で扱われていた。判断の軸は秘密っぽさではなく、権利で守られているかどうか
  • 本当に守るべきノウハウは、社内でも触れる人を限って守られる。ホームページに載せるか迷う情報の多くは、その階層とは別のところにある
  • 隠しすぎて起きるのは「何をしている会社か分からない」ではなく「他社との差が見えない」。差が見えなければ、比較は価格に落ちる
  • 載せられない情報は「取引先の情報」と「技術の開示不可部分」の2種類。対処は、方法を書かずに対応範囲と結果を書くこと
  • 線引きの決裁者を1人決める。制作会社に判断を委ねない

研究開発の現場では「出せる・出せない」をどう決めていたのか?

私がいた研究開発部門では、判断の最初の基準は「特許出願をして、権利として押さえてあるか」でした。

学会や展示会で発表したい、取引先に説明したい、という場面は研究者なら頻繁にあります。そのとき最初に見るのは、内容の重要度でも新しさでもなく、出願が済んでいるかどうかです。特許は出願から一定期間で公開されます。権利として押さえた技術は、公開されることと引き換えに守られています。だから外で話せます。逆に出願前の技術は、話した時点で新規性を失いかねないので、絶対に口外できません。どうしても話す必要があるときは、核心に触れない範囲まで内容を薄めるしかありませんでした。

最終的に「出してよい」と決めるのは私ではなく、発表や資料を決裁する上長や所属長でした。研究者本人は当事者なので、どうしても「これくらいは大丈夫」と判断が甘くなります。決裁者を別に置く仕組みは、そのための歯止めだったと今は思います。

もうひとつ、忘れられない扱いの技術があります。特許にすると内容が公開されてしまうため、公開のリスクが大きい技術はあえて出願せず、社内に留めていました。関連会社の工場だけで使う技術の場合は、その工場の従業員にも中身を明かしません。装置のメンテナンスが必要になれば、研究開発の人間だけが触れるようにしていました。本当に守るべきノウハウは、社外どころか社内でも、触れる人を限って守られていたわけです。

整理すると、研究開発の現場にあった技術情報は3つの階層に分かれます。

WHAT LEAVES THE LAB

研究開発の現場にあった、技術情報の3つの階層

特許で権利化済み

出願から一定期間で公開される。公開と引き換えに守られているので、外で話せる

出願前

口外しない。話す必要があれば、核心に触れない範囲まで薄める

特許にしない秘匿ノウハウ

公開のリスクが大きいので出願しない。社内でも触れる人を限る。メンテナンスも研究開発の人間だけ

ホームページに載せるか迷っている情報は、どの階層にあるか

ホームページに載せるか迷う情報は、どの階層にあるのか?

この3階層を、製造業のホームページに当てはめてみます。

一番下の階層、社内でも人を限って守るノウハウは、そもそもホームページに載せるかどうかの議論に上がりません。載せる載せないを迷う前に、守る側の仕組みが働いています。図面や配合、加工条件の核心部分がここに当たります。この階層で迷いが生じないのは、製造業の方にとっては当たり前のことだと思います。

「社外秘が多くて書けない」と言うとき、迷っている情報はどこにあるのか。私がクライアントや交流会で聞いてきた範囲では、次の3つのどれかでした。

1つ目は、取引先に関わる情報です。どこの会社の、どんな部品を作っているか。これは自社の秘密ではなく、取引先の秘密です。取引先との関係を考えて慎重になるのは、正当な判断だと思います。

2つ目は、競合に知られたくない技術の一部です。核心そのものではないものの、ヒントにはなりそうな情報です。ここは本当に線引きが必要な領域です。

3つ目は、言葉にしていないだけの情報です。検査の仕組み、工程を組むときの考え方、品質を保つための工夫。社内では当たり前になっていて、外に出す価値があると思えていない情報です。これは秘密ではなく、まだ書いていないだけです。前回の記事で「社内の当たり前」問題として書いたのは、この階層の話でした。強みが伝わっていない例は富士市の中小企業が持つ強み、ホームページでちゃんと伝わっていますか?にも書いています。

社外秘と一口に言っても、中身はこの3つに分かれます。仕分けをしないまま「書けない」とまとめてしまうと、3つ目の、本来は書けるはずの情報まで一緒に伏せることになります。私が見てきた中で、いちばんもったいないのがこのケースでした。貴社のホームページで伏せている情報は、どの階層のものでしょうか。

隠しすぎると、何が起きるのか?

発注する側だった経験から言うと、起きるのは「何をしている会社か分からない」ではありません。「他社との差が分からない」です。

化学メーカー時代、外部のメーカーに装置の設計や製作を依頼する場面で、候補となる会社のサイトや資料を見比べていました。技術情報を控えめにしている会社でも、何をしている会社かは分かります。困ったのは、A社とB社の違いがどこにあるのかが見えにくいことでした。どちらにも「精密加工に対応」「品質管理を徹底」と書いてあります。核心を伏せているのは当然として、その手前の、どこにこだわりがあるのかが読めませんでした。

差が見えないとき、比較の物差しは価格になります。これは私が制作側になってから交流会で聞く「技術で選ばれたいのに、値段の話ばかりされる」という悩みと、同じ構図です。隠すことの本当のコストは、候補から外れることではなく、価格でしか比べられなくなることだと私は考えています。

もっとも、逆に全部を書けばよいという話でもありません。本当に守るべき情報を出してしまえば、取引先の信頼も競争力も失います。線引きが必要なのはそのためです。

製造業のクライアントから「載せられない」と言われる情報は何か?

制作側になってから、製造業のクライアントに「これは載せられない」と言われた経験は何度もあります。振り返ると、2種類に分かれます。

1つは、クライアントの取引先の情報です。制作実績や事例として案件を紹介したいとき、その案件の発注元、つまりクライアントのクライアントの情報が入っていると、掲載できません。社名はもちろん、部品の形状や用途から取引先が推測できる場合も同じです。取引先の信頼で成り立っている会社にとって、これは譲れない線です。

もう1つは、技術の内容そのもので、開示できない部分です。加工条件、工程の組み方、設備の構造。競合に見られれば手の内を明かすことになる情報です。

交流会でも、情報発信をためらう理由として聞くのは、取引先との関係と、競合への開示がほとんどです。それに加えて、理由というより事情に近い話も聞きます。人手も時間も足りなくて、発信の優先度がどうしても下がります。書けるはずの情報も、価値があると思えないので手が伸びません。「載せられない」の後ろには、こうした事情も重なっています。

載せられない技術は、「何を」ではなく「何ができるか」に言い換える

載せられないと言われた情報を、私はどう扱ってきたか。クライアントと一緒にやってきたのは、公開すべきでない情報には触れず、閲覧する側や検討する側にとってのメリット、できること、解決できることに言い換える作業です。

考え方は、研究開発時代に出願前の技術を薄めて話していたときと同じです。方法は書きません。その代わり、その方法で何ができるか、どんな課題に対応できるかを書きます。取引先の情報は、社名ではなく業種と用途に置き換えます。

よくあるパターンを表にしました。伏せる側の情報は一般的な例で、特定の案件ではありません。

伏せる情報書けない形書ける形
加工条件(温度・圧力・配合比・時間)〇〇℃で△△分の熱処理により…材料□□で反りや寸法変化を抑えた実績あり。公差◇◇まで対応
取引先名〇〇自動車様向け△△部品自動車部品メーカー向け。量産立ち上げ前の試作から対応
独自の治具・設備の構造治具の全景写真と仕組みの説明段取り替えの時間を短縮し、多品種小ロットに対応。写真は手元の一部のみ
検査・品質管理の手順検査工程の手順書そのもの全数検査の体制。〇〇規格に沿った検査記録を保管
図面・仕様そのもの図面の掲載サイズ・材質・公差の受け入れ範囲として、対応できる幅を示す

右の列を見ると、方法は一切書かれていないのに、この会社に何を頼めるかは伝わります。発注する側が知りたいのは、実は左の列ではありません。自分の課題に応えてくれる会社かどうかです。核心を伏せたまま、その問いには答えられます。

クライアントに提案するときは、書き換えた文面を見てもらい、手の内が何も出ていないこと、出ているのはお客さまがこの会社に頼める範囲だけであることを一緒に確認します。取引先の情報も、業種と用途まで抽象化した文面から推測できないかを、その場で確かめます。ここまでやって、それでも「やめておきたい」と言われれば、載せません。守るべき線を決めるのは、あくまでクライアントです。

誰が線を引くのか?決裁者を1人決めておく

線引きで一番大事なのは、基準の細かさより、誰が決めるかだと私は考えています。

研究開発部門では、上長や所属長という決裁者がいました。中小製造業のホームページなら、その役割は社長か、技術を統括している方になります。ここを決めずに制作を進めると、原稿の確認が「なんとなく不安だから全部伏せる」か「制作会社が書いたのだから大丈夫だろう」のどちらかに流れます。どちらも線引きではありません。

制作会社に判断を委ねるのも避けてください。私自身が制作側なので言いにくいのですが、制作会社は貴社の技術の価値も、取引先との関係も、貴社ほどには知りません。制作側にできるのは、書き換えの案を出すことと、推測できないかを一緒に確かめることまでです。最後に「出してよい」と言えるのは、社内の決裁者だけです。

制作する側は、どこに線を引いているのか

人に線引きを勧めている以上、自分の線も書いておきます。

正直に言うと、私は制作実績をあまり出せていません。クライアントの許可が得られた案件だけを掲載しています。社名と、制作にあたってどんな想いで取り組んだかは出します。一方で、費用に関する情報は伏せています。取引条件は、クライアントと私のあいだの情報だからです。

見方を変えると、私にとってのクライアントは、製造業の方にとっての取引先と同じ位置にいます。クライアントの情報をどこまで出すかで悩む感覚は、「取引先のことは書けない」という製造業の方の判断と、そう違わないと思っています。

今日からできる3つのこと

1. 伏せている情報を、3つに仕分けする

「社外秘だから」と一括りにしている情報を、取引先に関わる情報、競合に見せたくない技術、言葉にしていないだけの情報の3つに分けてみてください。3つ目に当たる情報は、そのままホームページの材料になります。

2. 取引先の情報は、業種と用途に置き換えて書けるか試す

社名を出せない案件でも、「自動車部品メーカー向け」「医療機器の部品」まで抽象化すれば書ける場合があります。書いた文面から取引先が推測できないか、社内で確認してください。

3. 線引きの決裁者を1人決める

原稿を最終確認して「出してよい」と言う人を、制作が始まる前に決めておきます。制作会社任せにも、担当者の判断任せにもしないための一手です。

まとめ

  • 研究開発の現場では、技術情報は「権利化済み」「出願前」「秘匿ノウハウ」の3階層で扱われていた。判断の軸は秘密っぽさではなく、権利で守られているか
  • 本当に守るべきノウハウは、社内でも触れる人を限って守られる。ホームページに載せるか迷う情報は、取引先の情報、競合に見せたくない技術、言葉にしていないだけの情報のどれか
  • 隠しすぎて起きるのは「差が見えない」こと。差が見えなければ、比較は価格に落ちる
  • 載せられない技術は、方法ではなく対応範囲と結果を書く。取引先は業種と用途に置き換える
  • 線引きの決裁者を1人決め、制作会社に判断を委ねない

安全第一の文化を持つ製造業の方は、守るべき情報を守る仕組みを既に持っています。なぜ「安全第一」の製造業がWebセキュリティでは後手に回るのか?化学メーカー出身の制作者が考えるで書いたのと同じで、足りないのは慎重さではなく、慎重さを向ける先の仕分けです。

私は静岡県富士市でWeb制作とシステム開発をしています。「どこまで書いていいか分からない」という段階からで構いません。守るべき情報には触れず、貴社に何を頼めるかが伝わる原稿を、一緒に作りましょう。お問い合わせからどうぞ。

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