
AIで口コミを自動作成するツールは規約違反?「大丈夫?」と聞かれて、ポリシーを読むまで断言できなかった話
はじめに
「AIが口コミを書いてくれるツールがあるらしいんだけど、うちも入れて大丈夫かな」
知人の経営者から、こう聞かれました。お客さまがアンケートに答えると、その回答をもとにAIが口コミの文章を作り、Googleマップに投稿できるという仕組みです。
Web制作の仕事をしている私は、口コミにまつわるGoogleのルールを一応は知っていました。案内を見た瞬間、これはまずいと直感しました。ところが、口から出た答えは「限りなく黒に近いグレーだと思います」でした。確信が持てなかったのです。
翌日、Googleが公開しているポリシーを最初から読み直しました。そこで初めて、少なくとも私の解釈では黒だ、と言い切れました。
先に断っておくと、この記事は特定のツールを名指しで告発するものではありません。同じ仕組みのサービスは複数の会社が販売していますし、Googleビジネスプロフィールの公式コミュニティでも公開の場で議論されているテーマです。書きたいのは2つあります。知っているつもりでもポリシーを読むまで言い切れなかった、という私自身の話。そして、こうしたツールで規約違反になったとき、その責任を負うのが業者ではなく店側だという構造です。
この記事のまとめ
- アンケート回答からAIが口コミ文を作るツールは、仕組みによってGoogleマップのポリシー「評価の操作」に該当する可能性が高い
- 評価が低い回答を口コミ投稿に進ませない仕組みは、明確に禁止されている
- 違反の措置(新規口コミの停止・既存口コミの非公開・警告表示)を受けるのは、ツールを売った業者ではなく導入した店側
- 判断の根拠は要約の記憶ではなく、ポリシーの本文と確認した日付。業者への質問は1つで足りる
AIが口コミを書くツールとは、どんな仕組みか?
私が見た案内では、流れは4ステップでした。お客さまがQRコードを読み取ってアンケートを開く。選択式の設問に答える。回答内容をもとにAIが口コミの文章を作る。お客さまが内容を確認して投稿する。導入費と月額費用がかかる、店舗向けのサービスです。
設問は「とても良かった」から「不満」までの5段階や、星の数、「また来たいと思いますか」の二択といったものでした。アンケートに答えるだけで口コミが出来上がるので、お客さまは文章を考えなくてよく、店側は口コミをお願いする手間が減る、という触れ込みです。
知人が聞いてきた説明では、評価が低い回答の場合は口コミの作成に進まない仕組みもあるとのことでした。この点は私が直接確認したわけではないので、伝聞として書いておきます。ただ、同じ機能を持つサービスが日本に存在することは、後で触れる公式コミュニティでも指摘されています。
そして、案内のどこにも、Googleのポリシーについての記載はありませんでした。使ってよいのかどうかを判断する材料が、渡されないのです。
Googleのポリシーは、何を禁じているのか?
Googleマップに投稿される口コミには、「マップユーザーの作成したコンテンツに関するポリシー」という公開のルールがあります。その中の「評価の操作」の項に、販売者(お店側)がしてはいけないことが書かれています。本文(2026年9月7日確認)から引用します。
顧客からの否定的なクチコミの投稿を妨げたり禁止したり、肯定的なクチコミを選択的に募ったりする行為
反対に、許されている行為も書かれています。
インセンティブを提供したり、評価やクチコミの内容に影響を与えようとしたりせずに、実体験に基づくコンテンツの投稿を募ったり促したりする行為
このほか、口コミを募るときに店内で投稿を求めたり圧力をかけたりしないこと、スタッフに一定数の口コミを集めさせないこと、口コミに具体的な内容を含めるよう求めないこと、も明記されています。
この条文に、さきほどのツールの仕組みを当てはめてみます。論点は3つに分かれます。
論点1:低評価を投稿に進ませない仕組み
これは「否定的なクチコミの投稿を妨げたり禁止したりする行為」そのものです。英語圏ではレビューゲーティング(review gating)と呼ばれる、典型的な違反行為です。私の読み方では、ここは黒です。
論点2:店側が設計したアンケートから、AIが文章を作る仕組み
アンケートの設問と選択肢は店側が決めます。AIが文章にするときの指示も業者が決めます。お客さまの実体験がそのまま言葉になるのではなく、店側が用意した枠を通して口コミが出来上がります。これは「評価やクチコミの内容に影響を与えようとする」行為に当たる可能性が高いと私は考えています。
論点3:AIで文章を作ること自体
意外かもしれませんが、ポリシーの本文に「AI」や「自動生成」という言葉はありません。AIを使うこと自体を禁じる条文は、現時点では見当たりません。私が「グレー」と答えてしまった理由は、たぶんここにあります。
公式コミュニティの議論も、同じ整理をしています。Googleビジネスプロフィールのコミュニティには、2025年2月に「アンケート結果からAIに口コミを生成させるサービスをどう思うか」というスレッドが立ち、プロダクトエキスパート(Googleに認定された上級ユーザー)が複数回答しています。AIの使用を明示的に禁じるヘルプはないとしたうえで、アンケートは店側が設定する恣意的な選択肢なので「否定的なクチコミの投稿を妨げ、肯定的なクチコミを選択的に募る行為」に該当する可能性がある、という指摘。ネガティブな評価を除外すればゲーティングとして違反になる、という指摘。日本には今も、高評価だけを投稿画面へ進ませるQRアンケートのサービスがある、という指摘です。
つまり、AIかどうかは問題の中心ではありません。問題は、口コミの集め方です。
なぜ「グレー」としか言えなかったのか?
知っていたのは「ゲーティングは禁止」という要約だけだったからです。
聞かれたその場で、私が言えなかったことが3つあります。ポリシーにどう書いてあるか。その条文がいつから入ったか。違反したら具体的に何が起きるか。この3つが言えないと、「たぶんダメ」までしか言えません。相手は自分のお店の話として聞いているのに、「たぶん」では判断材料になりません。
翌日、ポリシーを最初から読み直して分かったのは、このポリシーが動いている、ということでした。
否定的な口コミを妨げる行為の禁止は、2022年の時点ではまだ書かれておらず、その後に加わった条文です。店内での投稿の強要やスタッフへの件数要求の禁止に至っては、2026年2月に加わったばかりでした。私が「知っていた」ルールは、数年前の要約の記憶だったわけです。
「知っている」と「本文を読んで言い切れる」は違います。ルールが変わる以上、要約の記憶はいつか古くなります。本文と確認した日付をセットで持っていない知識は、人に伝える段になると急に頼りなくなります。今回、身をもって知りました。
違反の当事者になるのは、業者ではなく店側です
ここが、この記事でいちばん伝えたいことです。
ポリシーに違反したと判断された場合に何が起きるかは、Googleビジネスプロフィールのヘルプ「ポリシー違反によるビジネス プロフィールの制限」に書かれています。一定期間、新しい口コミや評価を受け取れなくなる。一定期間、既存の口コミや評価が非公開になる。虚偽の口コミが削除されたことを消費者に知らせる警告が、プロフィールに表示される。再審査の請求はできますが、その手間を負うのも店側です。
ツールを売った業者は、この措置を受けません。措置を受けるのは、ツールを導入し、お客さまに案内し、口コミが投稿されたお店です。ツールを解約しても、非公開になった口コミや警告表示は、すぐには戻りません。時間をかけて積み上げた口コミが、まとめて見えなくなります。これが実害です。
WHO BEARS THE PENALTY
違反の措置は、誰が受けるのか
ツールを売る業者
案内にポリシーの話はない。
措置の対象にもならない
導入したお店
契約してお客さまに案内する側。
違反の当事者はここ
- 新しい口コミを一定期間受け取れない
- 既存の口コミが一定期間非公開になる
- 虚偽の口コミ削除の警告が表示される
ポリシーに照らして措置を取る。
根拠は誰でも読める
判断材料は渡されない。ポリシーは自分で読む
PEAS PROJECT
案内にポリシーの話が一言もない、と先に書きました。悪意があるかどうかは分かりません。ただ、判断材料を渡されないまま契約し、違反の当事者になるのは店側だ、という構造は変わりません。
Web制作の世界でも、同じ構図を何度も見てきました。経営者が本業以外の分野に詳しくないのは当然で、だからこそ専門の業者に頼るわけです。ただ、判断材料が渡されないと、比べられるのは説明の上手さだけになります。騙されたというより、他に物差しがなかっただけです。そういう決まり方をした契約を、私は何件も見てきました。契約書の条項が発注者に不利になっていた事例はその契約書、サインして大丈夫?ホームページ制作で実際にあったトラブルと確認すべきポイントに、制作会社選びで起きる同型の失敗はWeb制作会社選びで失敗するパターン、発注と制作を経験した視点からに書きました。
なお、Googleのポリシーとは別に、景品表示法の話もあります。消費者庁が公開しているステルスマーケティング規制のQ&Aでは、好意的な評価だけを選んで掲載すれば事業者の表示に当たり、星5を付けることを条件にした依頼も事業者の表示に当たる、とされています。Googleの規約は問題なくても景表法に触れる、あるいはその逆、という組み合わせもありえます。制度が別だということだけ、覚えておいてください。
化学メーカーで身についた、「触れるかどうか」を先に見る習慣
私は大手化学メーカーの研究開発部門で7年間働いていました。高圧ガスや危険物を日常的に扱う現場です。
そこでは、新しい実験を始める前に、法令に抵触しないかを毎回確認していました。社外には絶対に漏れない、研究室の中だけで完結する実験でも同じです。バレるかどうかは判断基準に入っていません。触れるか、触れないか。それだけを見ます。高圧ガス保安法や消防法は、事故が起きてから読むものではなく、着手する前に読むものでした。
補助金を使った設備投資でも同じでした。請求書や証票の保管、使途の明確化。「どうせ誰も見ない」とは誰も考えません。後から見られたときに説明できる状態を、先に作っておくのが当たり前でした。
Googleのポリシーは法令ではありません。それでも、事業に与える実害の構造は同じです。違反が見つかってから慌てるのではなく、入れる前にポリシーを読む、という順番です。化学メーカーで身についたこの習慣は、Webの仕事でもそのまま役に立っています。この感覚が製造業の方に通じやすいことは、なぜ「安全第一」の製造業がWebセキュリティでは後手に回るのか?化学メーカー出身の制作者が考えるにも書きました。
すぐにできること:ポリシーを確かめる3つの手順
口コミに限らず、業者からツールやサービスを勧められたときに使える手順です。
1. ポリシーを開いて、自分の目で読む
Googleマップの口コミなら、「マップユーザーの作成したコンテンツに関するポリシー」の「評価の操作」の項です。長い文書ですが、該当する項だけなら数分で読めます。この記事の引用も、2026年9月7日時点の本文です。
2. 読んだ日付を控え、時間が経ったら読み直す
ポリシーは予告なく改訂されます。今回のように、数年前にはなかった条文が入っていることがあります。「前に調べたから大丈夫」が通用しない前提で、読んだ日付を控えておき、ツールの導入や更新の節目に読み直してください。
3. 業者に、質問を1つだけする
「この仕組みは、Googleのどの条文に照らして問題ないと判断していますか」
これだけで十分です。条文を挙げて説明してくれる業者なら、少なくともポリシーを読んでいます。「みんなやっています」「今まで問題になったことはありません」という答えが返ってきたら、判断材料はまだ渡されていない、と考えてください。無事故の記録は、安全の証明にはなりません。
冒頭の知人には、翌日あらためて伝えました。Googleのポリシーに違反する可能性が高いので、私は勧めません、と。口コミを増やしたい気持ちは分かりますし、代わりの方法もあります。実体験に基づく投稿を、内容に手を入れずにお願いすること。これはポリシーがはっきり許している行為です。
この記事のまとめ
- アンケート回答からAIが口コミ文を作るツールは、低評価を投稿に進ませない仕組みや、店側が設計した枠で文章を作る仕組みによって、ポリシー「評価の操作」に該当する可能性が高い
- AIの使用そのものを禁じる条文はない。問題はAIではなく、口コミの集め方
- 違反の措置を受けるのは、ツールを売った業者ではなく導入した店側。判断材料が渡されないまま当事者になる構造がある
- 対策は、ポリシーを自分で読み、確認した日付を控えること。業者には「どの条文に照らして問題ないと判断したか」を1つ聞けばいい
「限りなく黒に近いグレー」としか言えなかった翌日、ポリシーを読んで、私の解釈では黒だと言えるようになりました。この記事で残したかったのは、その差です。
私は静岡県富士市でWeb制作とシステム開発をしています。「このツール、入れて大丈夫?」と思ったとき、ポリシーを一緒に読む相手が必要でしたら、お問い合わせからどうぞ。勧められたサービスの案内を持ち込んでいただければ、一緒に条文と照らします。