
ホームページ制作は丸投げだと失敗する?「お任せしたい」を否定しない制作者が考える分かれ目
はじめに
「正直、全部お任せでお願いしたいんです」
ホームページ制作の相談で、こう言われることは珍しくありません。そしてこの悩みを検索すると、「丸投げは失敗のもと」「発注者も主体的に関わりましょう」という記事がずらりと並びます。
私は静岡県富士市でWeb制作とシステム開発をしているのですが、この「丸投げすると失敗しますよ」という脅し文句に、ずっと違和感を持っています。丸投げしたい気持ちは、本心だと思うからです。希望をうまく言葉にできない。日々の仕事で考える暇がない。なんとなくの希望はあるけれど、素人考えだと思うと口に出す自信がない。理由は人それぞれですが、どれも責められるようなことではありません。
実際のところ、私は「丸投げされたせいで失敗した」と感じた経験がほぼありません。この記事では、その種明かしをしながら、丸投げが本当に失敗へ変わる分かれ目はどこにあるのかを、制作者の立場から正直に書きます。
この記事のまとめ
- 丸投げしたい気持ちは本心であり、否定されるようなものではない
- 丸投げの失敗は発注者の怠慢ではなく、丸投げを丸投げのまま進めてしまう進行で起きる
- 渡していいのは「実行」。「何のために作るのか」という目的と、譲れない考え方だけは発注者が握る
- 良い制作会社は、答えやすい質問を用意して発注者の考えを一緒に作ってくれる。見分けどころは質問の量と質
- 打ち合わせは少なくとも3〜5回。負担の正体は作業量より「自社のことを言葉にする時間」
なぜ「丸投げは失敗する」と言われるのか?
丸投げの失敗談には、共通の筋書きがあります。情報がないまま作られたサイトは、どこかで見たような当たり障りのない仕上がりになり、公開してから「うちらしくない」「思っていたのと違う」という不満が出る。この筋書き自体は実在します。私も相談の場で、他社で作ったサイトへのこうした不満を聞く機会は少なくありません。
ただ、原因の置き場所が違うと思っています。よくある記事はこの失敗を「発注者が関わらなかったせい」にしますが、私の見方は逆です。手元に材料がなければ、制作会社は業界の平均的な正解に寄せるしかありません。その会社にしかない考え方や強みを聞き出せないまま、無難なテンプレートに落ち着く。トップに大きな写真、その下に「品質へのこだわり」「安心のサポート体制」。どの業種にも当てはまる言葉は、どの会社の顔にもなりません。つまり丸投げの失敗は、発注者の怠慢というより、丸投げを丸投げのまま受け取って進めてしまう進行の問題です。
制作会社側の事情も含めた失敗の構図は、Web制作会社選びで失敗するパターン、発注と制作を経験した視点からでも書いています。
丸投げで失敗した経験がない、と言える理由
種明かしをすると、丸投げのまま進行させないからです。
「お任せで」と言われたとき、私は「それでは困ります。御社も考えてください」とは返しません。代わりに「次回までに、選ぶだけで答えられる質問を用意してきます」と提案します。たとえばデザインなら、方向性の違う参考サイトを並べて「どちらが好みですか」から始める。ゼロから「どんなサイトにしたいですか」と聞かれて答えられなかった方が、二択なら即答できることはよくあります。選んでもらったら、なぜそちらを選んだのかを一緒に言葉にしていく。この繰り返しで、相手の中に眠っていた希望を一緒に作っていきます。
正直に言えば、この進め方は制作側の手間が増えます。質問を考えるのも、選択肢を用意するのも、打ち合わせの前に準備が要るからです。それでも、手間をかけた分だけ、相手の中に眠っている希望に近づけます。そうして作ったサイトは公開後の「思っていたのと違う」が起こりにくく、長い目で見れば私にとってもパフォーマンスの良い進め方だと考えています。
面白いのはここからです。こうして進めると、最初は「お任せで」と言っていた方の気持ちが、途中から乗ってきます。「実は競合のこの見せ方が気になっていた」「この部分はうちが勝っているから、もっと強く出したい」「こういう機能があるとお客さんに喜ばれそうだけど、できますか?」。進行中にこうした要望が次々に出てくることは、体感としてかなり多いのです。制作会社によっては「後出しの要望」と嫌がる場面かもしれませんが、私はむしろ良い兆候だと受け取っています。自分のサイトとして考え始めた証拠だからです。
ひとつ現実的な注意を添えると、途中で膨らんだ要望は、契約範囲と費用の話とセットで扱う必要があります。「言えば全部無料でやってもらえる」と「何を言っても追加費用」の間のルールを、着手前に確認しておくと安心です。このあたりはその契約書、サインして大丈夫?ホームページ制作で実際にあったトラブルと確認すべきポイントにまとめています。
「丸投げ」と「お任せ」はどう違う?
同じ「任せる」でも、渡しているものが違います。実行を委ねるのが「お任せ」、目的と判断材料まで手放してしまうのが「丸投げ」です。
この線引きは、私が発注する側だった頃の経験から来ています。Web業界に来る前、私は化学メーカーの研究開発部門でプロジェクトリーダーとして外部発注を主導していました。実証機の設計・製作を外部メーカーに依頼するような場面です。そこで自然にやっていた線引きがあります。自社の専門である化学の部分は、譲れないものとして自分たちで握る。逆に、装置の設計や製作のような自社の専門から外れる部分は、話に置いていかれない程度に勉強はしつつ、外部メーカーの知見を最大限借りる。外部メーカーとの打ち合わせを重ねるなかで実感したのは、こちらが目的をはっきり伝えたときほど、先方から返ってくる提案が鋭くなることでした。
これをホームページ制作に置き換えると、こうなります。発注者がWebの専門家になる必要はありません。デザインや技術の判断は、プロに委ねてかまわない。ただし、発注者の側にも「自社の専門」があります。自分の事業のこと、自社の強み、大切にしている考え方。ここだけは、制作会社がどれだけ優秀でも代わりに持つことができません。
TOSS OR TRUST?
「丸投げ」と「お任せ」、渡しているものの違い
丸投げ:目的ごと手放す
- 「いい感じにしてください」
- 「全部そちらで決めてください」
- 「特に出せるものはありません」
材料がないので、業界の平均的な正解に寄るしかない
分かれ目
「何のために作るか」を誰が持っているか
お任せ:実行を委ねる
- 目的は自分が握る「新規の問い合わせを増やしたい」
- 譲れないものを共有する「安売りはしない方針です」
- 見せ方・作り方はプロに委ねる
渡していいのは「実行」。「目的」まで渡すと丸投げになる
PEAS PROJECT
冒頭に書いた失敗の筋書きは、実行ではなく目的ごと手放したときに起こります。逆に言えば、目的さえ手元にあれば、実行はどれだけ委ねても丸投げにはなりません。
それでも発注者にしか出せないもの
目的です。システム開発でもWeb制作でも、「何のために作るのか」がしっかりしていないと、絶対に良いものにはならないと私は思っています。
当たり前のことを書いているようですが、ここが意外にぶれている方が多いのです。採用のためのはずだったサイトの打ち合わせが、いつの間にか取引先向けの見栄えの話になっている。問い合わせを増やしたかったはずが、色の好みの話に時間が溶けている。目的は打ち合わせを重ねるほど静かにずれていくので、最初に言葉として固定しておく必要があります。
もうひとつ、必須ではないけれど、共有してもらえるとかなりありがたいものがあります。社内のポリシーや考え方、譲れない信念です。「うちは即納が生命線だから、スピードの話だけは外せない」「安売りはしないと決めている」。こうした一言があるだけで、デザインの方向も文章のトーンも一気に定まります。
やっかいなのは、この種の信念ほど社内では当たり前になっていることです。あえて言わないというより、言おうという発想すらない。外の人間に質問されて初めて「そういえば、うちはずっとこれを守ってきた」と言葉になる強みや信念が、確かにあります。どこかで見たようなサイトと、その会社にしか作れないサイトの差は、たいていここで生まれます。
目的の整理は、発注前に少し考えておくだけでも打ち合わせの質が変わります。何をどう整理しておけばいいかはシステム開発を依頼する前に整理しておくと、話がスムーズに進むことに書きました。システム開発向けの記事ですが、考え方はホームページ制作でも同じです。
丸投げでも成功する条件は?制作会社の見分け方
ここまでの話を裏返すと、丸投げしたい方への答えになります。丸投げから始めていいのです。目的だけ持って、丸投げを丸投げのままにしない制作会社を選べば。
見分けどころは、打ち合わせで質問がどれだけ出てくるかです。「お任せください、楽ですよ」とすんなり引き受けてくれる会社は、一見ありがたい存在に見えます。ただ、材料を集めずに作れるのは、先ほど書いたとおり平均的な正解のサイトです。逆に、事業のこと、お客さんのこと、競合のことをあれこれ聞いてくる会社は、正直ちょっと面倒です。宿題も出ます。それでもその面倒さは、あなたの会社の材料でサイトを作ろうとしていることの表れです。
質問の中身にも差が出ます。「どんなサイトにしたいですか」と丸ごと聞き返してくる会社より、「この2つならどちらが近いですか」と答えやすい形に噛み砕いて聞いてくれる会社の方が、伴走の設計ができています。発注者が答えに詰まるのは発注者のせいではなく、質問の出し方の問題だと私は考えています。
制作会社選び全般の判断基準は相見積もりで失敗しないWeb制作会社の選び方と判断基準にまとめているので、比較検討の段階ではそちらも参考にしてください。
発注者の負担は実際どれくらい?
丸投げしたくなる一番の理由は、時間がないことだと思います。だから正直に書いておくと、伴走型の進め方でも、打ち合わせが際限なく増えるわけではありません。Peas Projectの場合、規模にもよりますが、少なくとも3〜5回の打ち合わせを重ねて公開まで進みます。
宿題の量は、業種や状況によって変わるので一概には言えません。写真や資料が揃っている会社なら集める手間はほぼかかりませんし、ゼロから言葉を作る会社なら、考える時間を少しもらうことになります。ただ、どんな場合でも共通することがひとつあります。宿題を「答えやすい形」にして出すのは制作会社の仕事だ、ということです。白紙を渡されて「自由に書いてきてください」という宿題が出たら、それは丸投げのお返しをされていると思っていい。
負担の正体は、作業量よりも「自社のことを言葉にする時間」です。そしてこの時間は、サイトが完成した後も営業トークや会社案内にそのまま使い回せます。サイト制作をきっかけに自社の強みが言葉になった、という副産物は、私が思っている以上に喜ばれることが多いのです。
まとめ:丸投げでいい。ただし目的だけは持ってきてほしい
最後に、この記事の主張を整理します。
- 丸投げしたい気持ちは本心であり、否定されるものではない。希望を言葉にできないのは発注者の落ち度ではない
- 丸投げの失敗は、丸投げを丸投げのまま進める進行で起きる。材料がなければ制作会社は平均的な正解に寄せるしかない
- 渡していいのは「実行」。「何のために作るのか」という目的と、社内の譲れない考え方だけは発注者が握る
- 質問を用意してくれる会社を選べば、丸投げから始めても、途中から自然に「自分のサイト」になっていく
「全部お任せでお願いしたいんです」という相談を、私は歓迎しています。その言葉の裏にある「うまく言葉にできない」を言葉にするところからが、制作の仕事だと思っているからです。富士市周辺で「考えがまとまっていないから相談しづらい」と感じている方こそ、まとまっていないまま相談に来てください。一緒に作るところから始めましょう。