製造業の社長がWeb担当者を採用する前に決めておきたい役割分担の考え方
はじめに
Webサイトを何とかしたい。でも、社内に詳しい人がいない。
富士市の製造業の社長から、私はこの相談を何度も受けてきました。経営者交流会で名刺を交換した方から、知人を介して紹介された方から、業種は様々ですが共通しているのは「現状を変えたいが、どこから手を付けていいか分からない」という戸惑いです。
制作会社に依頼したことがある方も少なくありません。ただ、サイトはできあがったものの、その後は更新されないまま数年経っている。担当者を1人つけてみたが異動や退職で振り出しに戻った。結局、社長自身が空き時間に手を入れている。話を聞いていると、こうした経過をたどっているケースがほとんどです。
Webに専任の担当者を雇うべきか。多くの社長がここで止まります。求人を出してもなかなか応募が来ない、来ても定着しない。Webスキルを持つ人材は、製造業の中小企業にとって採用しにくいポジションです。
ただ、私は最近こう考えるようになりました。Web担当者を採用するのは最後の手段で構わない、と。社内に1人だけ「窓口役」を置いて、外部のパートナーと役割分担をすれば、十分に動かせる。本記事ではその考え方を共有します。
この記事のまとめ
- Webの仕事を「戦略・制作・運用」の3層に分けて考えると、社内に必要な人材像が見えてくる
- Web担当者を採用するのは最後の手段でいい。社内に1人「窓口役」を置けば、外部パートナーと役割分担で回せる
- 窓口役の最低条件は「社長と話せる距離」「PCの基本操作」「外部の話を社内に通訳する意欲」の3つ
- 外部パートナーは1社に絞らず、Web制作会社・フリーランス・ITコンサル・公的支援窓口を目的別に使い分ける
- 今週から始められる第一歩は、窓口役の候補を社内で挙げることと、公的支援窓口に1度相談してみること
なぜ「Web担当が決まらない」状態が続くのか
中小製造業の社長から聞く悩みには、共通するパターンがあります。私が交流会や個別相談で繰り返し見てきた3つを紹介します。
PCに強い若手に任せたら、辞めてしまった
社内にWebの仕事を任せられそうな人がいないとき、よくある選択肢が「PCの操作が比較的できる若手社員」にお願いすることです。本人は嫌な顔をせず引き受けてくれる。社長としては安心します。
ただ、この若手が異動や退職で抜けたとき、サイトは一気にブラックボックスになります。サーバーのログイン情報も、過去の制作会社との連絡履歴も、その若手の頭の中にしかなかった、というケースを何度も見てきました。Webの作業は属人化しやすく、引き継ぎなしで人が抜けると、誰も触れないサイトが残されます。
制作会社に任せたが、その後は何も進まない
「とりあえず作ってもらおう」と、地元か全国の制作会社にホームページの新規制作を依頼する。半年ほどでサイトは完成し、契約は終わります。問題はそこからです。
更新の依頼を出そうにも、社内に何を頼んでいいか分かる人がいない。制作会社からも能動的な提案は来ない。気がつけば公開から2〜3年経ち、最終更新日は当時のままになっている。こうしたサイトを引き継いで保守を担うことは、私の仕事の中でも珍しくありません。
結局、社長自身が片手間で見ている
人に任せられないなら自分でやるしかない。そう判断して、社長自身が空き時間にWordPressの更新画面を開く。やってみると意外とできてしまうので、しばらくは自走できます。
ただ、社長の時間は本来、経営判断に使うべきものです。Webの細かい更新作業に時間を取られると、本業の意思決定が後回しになります。そして本業が忙しい時期には、当然Webは止まります。
共通しているのは「役割が決まっていないこと」
3つのパターンを並べると、原因がはっきり見えてきます。誰が、どこまでを担うのかが決まっていないことです。
「とりあえず誰かに任せた」「とりあえず制作会社に頼んだ」「とりあえず自分で見ている」。どれも仮置きの状態で動き出して、そのまま放置されています。役割が定義されていないので、誰も責任を持って継続できない。これがWebが進まない本当の理由です。
Webの仕事は「3つの層」に分けて考える
役割を決めるには、まず「Webの仕事」が一括りでは捉えられないことを認識する必要があります。私は次の3層に分けて考えるようにしています。
THE THREE LAYERS OF WEB WORK
Webの仕事は3つの層に
分けて考える
何のために、誰に、何を伝えるか
この層でやること
目的の明確化/ターゲットの特定/自社の強みの言語化
戦略を実際にサイトの形にする
この層でやること
デザイン/コーディング/文章作成/SEO対策
サイトを動かし続け、改善する
この層でやること
情報更新/保守管理/アクセス解析/継続的な改善
外部だけでも社内だけでも回らない層。両者を結ぶ「窓口役」が要になります。
戦略層:何のために、誰に、何を伝えるか
Webサイトを通じて何を達成したいのか。新規顧客を獲得したいのか、採用に活かしたいのか、既存取引先への信頼補強なのか。誰に向けて発信するのか。何を伝えれば相手の心が動くのか。
ここは経営判断と直結する領域です。事業の方向性、競合との差別化、自社の強みの言語化が含まれます。社長自身、または経営層の関与が欠かせません。外部に丸投げすると、サイトが「誰のためのものか分からない」状態になります。
制作層:実際にサイトをつくる
戦略が決まったら、それをサイトの形にする工程です。デザイン、コーディング、文章の作成、写真の手配、スマホ対応、SEO対策など、専門スキルが必要な領域が並びます。
ここは外部に任せやすい層です。社内に専任を置くより、その道のプロに依頼した方が品質もコストも効率的です。中小製造業がフルタイムでWebデザイナーやエンジニアを雇うのは、現実的ではありません。
運用層:更新・管理・改善を続ける
サイトは作って終わりではなく、運用してこそ機能します。新しい製品情報を載せる、お知らせを更新する、サーバーやWordPressを最新に保つ、アクセス解析を見て改善点を探る。こうした継続的な作業が運用層です。
運用は外部だけでも社内だけでも回りません。外部に任せきりだと「何を更新すべきか」のネタが社内から上がってこない。社内だけで抱えると属人化します。両者が役割を決めて協力する必要がある層です。
社内に必要なのは「全部やる人」ではなく「全体をつなぐ人」
3層に分解すると、社内に置くべき人材像が変わってきます。Web全部をこなせる人を採用しようとするから採用できないのです。本当に必要なのは、3層を見渡して外部とつなぐ役割を担う人だと、私は考えています。
採用を急がず、社内に「窓口役」を1人立てる
ここで提案したいのが、Web担当者の採用に踏み切る前に、社内に「窓口役」を1人決めることです。
なぜ採用は最後の手段でいいのか
中小製造業がWebスキルを持つ人材を採用するのは、率直に言って難しい仕事です。仮に採用できても、Web1人体制では成長機会が少なく、定着しないリスクがあります。
採用にかかるコストは求人媒体費だけではありません。面接にかかる時間、入社後の育成期間、業務環境の整備、退職時の引き継ぎコストまで含めると、想像より大きな投資になります。1〜2年で離職した場合の損失も計算に入れて判断すべきです。
外部パートナーと役割分担できるなら、採用は急がない方がいい場面が多いです。事業が成長して、Webが本業の中核になる段階になってから検討しても遅くありません。
化学メーカー時代に学んだ「通訳役」の重要性
私は前職で大手化学メーカーの研究開発部門に所属していました。プロジェクトリーダーとして、社外の研究機関、設備メーカー、各種受託会社など、社外の専門家と協業する場面が日常的にありました。
そのときに必ず必要だったのが、社内側の「窓口役」です。役割は単純で、社外の専門家と社内の現場を橋渡しすることでした。
この役割の有無で、プロジェクトの進み方が劇的に変わります。窓口役がいないと、技術の細かい話を社外に丸投げしてしまい、要件のズレが後から発覚します。逆に社内で抱え込みすぎると、社外の専門家の知見が活きません。間に立って双方の言葉を翻訳できる1人がいるかどうかで、成果が決まる。これは何度も体験しました。
Webの世界も同じ構造です。社外のWeb専門家と社内の現場をつなぐ窓口役が1人いれば、外注に丸投げにもならず、社内で抱え込みすぎることもなく、プロジェクトが進みます。
窓口役に求める最低条件は3つ
窓口役は、Webの専門家である必要はありません。私が考える最低条件は3つです。
第一に、社長と日常的に話せる距離にいる人。窓口役の判断には、しばしば経営的な意思決定が必要になります。サイトの方向性、予算の使い方、優先順位の決定など、社長と頻繁に確認できる関係性が前提です。
第二に、PCの基本操作ができる人。WordPressの管理画面に入れる、メールで添付ファイルをやり取りできる、Web会議に参加できる、この程度で十分です。プログラミングや高度なデザインスキルは不要です。
第三に、外部の話を社内に通訳する意欲がある人。これが一番大事です。Web制作会社の担当者が話す言葉と、自社の現場の言葉は違います。両方の言葉を聞いて、お互いに分かる形で翻訳する姿勢があれば、スキルは後から付いてきます。
具体的にどの部署の誰が向いているのか、どう育てていくのかは、別の記事で詳しく扱う予定です。今回は「3つの最低条件で社内候補を見渡してみる」ところから始めてください。
外部パートナーは「目的別」で複数を使い分ける
社内に窓口役が決まったら、外部パートナーをどう選ぶかが次の論点です。ここで陥りがちなのが「1社にまとめて任せたい」という発想ですが、私はあえて目的別に複数を使い分けることを推奨します。
EXTERNAL PARTNERS, FOUR OPTIONS
外部パートナーは
目的別に使い分ける
一括して任せたいときの選択肢。デザインから実装まで対応できる。
特定領域だけを補強したいときに。対応範囲は人によって幅がある。
社内体制やDX全般から相談したいとき。制作は別パートナーに任せる前提。
商工会議所や地域の中小企業支援機関など。中立的な立場で全体像の整理を手伝ってくれる。
最初の一歩として最も活用しやすい選択肢です。
外部パートナーは大きく4種類
選択肢を整理すると、次の4つに分類できます。
Web制作会社は、サイトの新規制作やリニューアルが主軸の事業者です。デザインから実装まで一括対応できる強みがあり、運用保守も契約に含めるところが多くあります。費用感は中〜高めですが、責任範囲が明確で、社内側の管理工数を減らしたい場合に適しています。
フリーランスは個人で受注する制作者です。費用感は低〜中、対応範囲は人によって幅があります。制作だけでなく戦略相談まで対応してくれる方もいれば、コーディング専門の方もいます。費用を抑えたい場合や、特定の専門領域だけ補強したい場合に向いています。ただし、1人で動いている分、対応速度や引き継ぎリスクは制作会社より高くなります。
ITコンサルは、Webに限らず社内のIT・DX全般を相談できる事業者です。戦略層の整理や、社内体制の設計、補助金活用のアドバイスなどが得意領域です。制作そのものは別パートナーに任せることが多くなります。Webだけでなく社内全体のIT課題を抱えている場合に検討する価値があります。
公的支援窓口は、商工会議所や地域の中小企業支援機関などが提供する相談サービスです。多くは無料か実費程度で利用できます。中立的な立場で全体像の整理を手伝ってくれるので、最初の一歩として非常に使いやすい選択肢です。具体的な制作・運用までは対応しませんが、自社の状況を客観的に把握する場として優れています。
富士市の地元パートナーを選ぶ意味
富士市で事業を営んでいる方には、地元のパートナーを選ぶ選択肢を真剣に検討してほしいと思います。
地元事業者の最大の利点は、顔が見えることです。経営者交流会や地域のイベントで実際に会って話せる。何かあったときに直接訪問して打ち合わせできる。製造業の現場感を共有しやすい同じ地域の事業者だと、業界用語や商習慣の前提が通じやすい場面もあります。
一方で、地元では足りない領域も当然あります。専門性の高いシステム開発や、特定業界に特化したマーケティングは、地元事業者だけでは対応しきれないこともあります。その場合は、戦略は地元、特定領域は遠隔の専門家、と組み合わせる発想で問題ありません。1社に絞る必要はありません。
最初に公的支援窓口を活用するという選択肢
どこから始めればいいか分からない方に、私が最も勧めたいのは「公的支援窓口にまず相談する」という第一歩です。
地域の中小企業支援機関や商工会議所には、Webや経営に関する相談に乗ってくれる専門家が常駐しています。利用料は無料か実費程度で、特定のサービスを売りつけられる心配もありません。中立的な立場で全体像を整理してもらえるので、自社の状況を客観的に見直すには最適な場です。
「制作会社に相談する前に、自社の状況を整理したい」「補助金が使えるかどうかを知りたい」といった段階で訪ねてみると、想像以上に得るものがあります。
今週から始められる3つのこと
ここまで読んで、「考え方は分かったが、何から動けばいいか」と感じる方もいるかもしれません。最後に、今週から始められる小さな3つのアクションを提案します。
社内で窓口役の候補を1〜2人挙げる
部署や年齢で選ぼうとせず、先ほどの最低条件3つで社員を見渡してみてください。社長と話せる距離にいて、PCの基本操作ができて、外部とのやり取りに前向きな人。製造業の現場で言えば、品質管理や営業事務、若手の現場リーダーあたりに候補がいることが多い印象です。
すぐに任命しなくて構いません。まず候補を頭の中で挙げてみるところから始めてください。
公的支援窓口に1度相談してみる
地域の中小企業支援機関や商工会議所に、一度連絡を入れてみてください。「Webサイトをどうしていけばいいか相談したい」と伝えれば、適切な担当者を案内してくれます。
時期にもよりますが、予約から1〜2週間で相談に乗ってもらえることが多いです。無料で全体像を整理できる機会は、活用しない手はありません。
現状のWebサイトの状態を棚卸する
社内の窓口役候補と一緒に、現状のWebサイトを4つの視点で棚卸してください。
最終更新日はいつか。サーバーやドメインの連絡先・契約状況はどうなっているか。WordPressの管理画面に入れる人は誰か。保守契約は結ばれているか。
この4つが分からないまま新しい施策を打っても、土台が崩れたままで前に進みません。現状把握が最初の一歩です。
役割分担の発想で動き出すために
「Web担当者を採用すべきか」で止まっている社長は、富士市の製造業に多く存在します。私が交流会で繰り返し聞いてきた悩みでもあります。ただ、採用は最後の手段でいい、と私は考えています。
社内に窓口役を1人立てて、外部パートナーを目的別に使い分ける。この役割分担の発想に切り替えるだけで、動き出せる中小製造業は多いはずです。Webスキルがある人材を1人採用しようとするから難しいのであって、社内に必要なのは全部やる人ではなく、全体をつなぐ人だからです。
富士市・静岡で、社内体制から相談したい中小製造業の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。元化学メーカーの研究員として技術系企業の現場感を理解した上で、Web参謀として体制設計から伴走させていただきます。
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