
化学分析とWeb解析の決定的な違い
この記事のまとめ
- ⚡分析化学では「なぜそうなるか」を突き詰めるが、Web解析では「何が起きているか」を素早く把握することが重要
- ⚡化学分析は精度重視、Web解析はスピードと改善アクション重視という根本的な違いがある
- ⚡科学的思考をWeb解析に応用することで、より確実な成果につながる
- ⚡両分野の経験から見えた、データドリブン経営を成功させる実践的なアプローチ
「元化学者です」と名刺交換すると、必ずと言っていいほど「え、化学からなんでWeb系に?」という反応をいただきます。
大学入学から前職を退職するまで、触媒、バイオマスや分析化学の研究に携わっていた私が、なぜWebの世界に足を踏み入れたのか。そして実際にやってみて分かった、化学分析とWeb解析の意外すぎる違いについてお話しします。
データ分析の本質的な違いを理解することで、より効果的なWeb戦略が見えてくるはずです。
きっかけは「数字への親しみやすさ」だった
Web業界に転身したとき、「化学の経験があるなら、データ分析は得意でしょう」とよく言われました。確かに実験データを扱うことには慣れていたので、Web解析ツールの数字を見ることに抵抗はありませんでした。
でも実際に触ってみると、全然違いました。
化学分析では、例えばGC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析法)で得られたスペクトルデータから、「この分子構造だからこのピークが出る」という理由を突き詰めて考えます。理論があって、それに基づいて現象を説明する。これが当たり前でした。
ところがWeb解析では、「セッション数が先月比20%減少している」という事実があっても、その理由は無数にあり得ます。検索順位の変動、競合の新サービス、季節要因、サイトの不具合…。一つの原因に絞り込むより、可能性の高い要因から順番に検証していく方が効率的なんです。
分析の「深さ」vs「速さ」の根本的違い
この違いを痛感したのは、あるECサイトのコンバージョン率(CVR)改善プロジェクトでした。
化学者だった頃のアプローチ
CVRが低下した原因を徹底的に調べ上げようとしたでしょう。どのページで離脱しているか、どの時間帯に問題が起きているか、デバイス別、流入元別、性別年齢別…あらゆる角度から分析して、統計的に有意な結論を出そうとしたはずです。
Web解析でのアプローチ
ユーザー行動データとヒートマップ解析を調査し、商品詳細ページのCTAボタンに改善余地があると仮説を立て、A/Bテストで検証した結果、CVRが15%改善。
化学実験なら「なぜこの変更が効果的だったのか」を徹底的に解明したくなりますが、Web解析では「効果が確認できた、次の改善課題に移ろう」となります。
どちらも科学的なアプローチですが、求められる分析の深度と改善スピードが根本的に異なるのです。
科学的手法をWeb解析に応用してみると
化学の実験手法をWeb解析に応用してみると、意外にも相性が良いことが分かりました。
仮説設定の重要性
化学実験では必ず仮説を立ててから実験します。「この条件で実験すれば、この結果が期待できる」という予測です。
Web解析でも同じアプローチが有効です。
- 「商品ページの滞在時間が長いユーザーほど購入率が高いはず」
- 「スマホユーザーの離脱率が高いのは、ページ読み込み速度が原因のはず」
仮説があると、Web解析ツールの膨大なデータから何を見るべきかが明確になります。
対照実験の考え方
化学実験では必ず「対照実験」を行います。条件を変えた実験群と、変えていない対照群を比較して、変化の原因を特定する手法です。
Web解析でも、A/Bテストは同じ原理です。ただし化学実験と違って、Web上では外的要因(季節、競合の動向、検索アルゴリズムの変更など)をコントロールできません。だからこそ、テスト期間の設定や、統計的有意性の判断がより重要になります。
実際のクライアント事例:製造業B2B企業での成果
地方の製造業B2B企業での支援事例をご紹介します。
課題
- 自社サイトからの問い合わせが月10件程度で頭打ち
- どのコンテンツが商談につながっているか分からない
- 営業部門から「サイト経由の案件が増えない」と相談
科学的アプローチでの解決策
Step1: 測定方法の標準化 化学実験と同じで、まずは正確な測定方法を確立しました。Web解析ツールのイベント設定を見直し、「資料ダウンロード」「お問い合わせフォーム送信」「製品詳細ページ閲覧」などを適切に計測できるよう設定。
Step2: ベースラインの確立 過去3ヶ月のデータを「基準値」として設定。化学実験で言うところの「標準試料」の役割です。
Step3: 仮説検証サイクルの導入
- 仮説:「技術資料をダウンロードしたユーザーは、商談につながりやすい」
- 検証:Web解析ツールのコンバージョン経路分析で、資料DL→お問い合わせの流れを追跡
- 結果:資料DLユーザーの商談化率は38%、非DLユーザーの14%を大幅に上回ることが判明
成果
3ヶ月間の取り組みで以下の結果を達成しました。
- お問い合わせ数:月15件→月23件(53%増)
- 商談化率:22%→31%
- 営業部門での「Web経由案件」の評価向上
特に重要だったのは、化学実験と同じように「なぜその結果になったのか」を営業部門に論理的に説明できたことです。これにより、Web施策への理解と協力を得ることができました。
データ活用を成功させる実践的なポイント
化学分析とWeb解析、両方の経験から見えた「データを活用して事業を成長させる」ためのポイントをまとめました。
完璧性より実行性を重視する
化学の世界では、99.9%の純度でも「不純物があるから使えない」と言われることがあります。でもビジネスでは、80%の確信で動いた方が結果的に良い成果を得られることが多い。
Web解析のデータも完璧ではありません。「このデータから何が言えるか」を考えて、素早く行動に移すことが重要です。
改善サイクルの時間軸を理解する
化学研究では分析結果から新材料開発や製造プロセス改善まで数ヶ月〜数年要します。Web解析では分析結果を数日〜数週間で改善アクションに活かすことが求められます。
どちらも最終的には「改善による価値創出」が目的ですが、求められる改善サイクルの速度が大きく異なります。
社内の共通言語を作る
化学の世界では、誰もが分子式やpHといった共通言語を使います。でもWeb解析では、「セッション」「PV」「CVR」といった用語の理解が人によってバラバラなことが多い。
経営陣、営業、マーケティング、制作チームが同じ指標を見て、同じ理解をすることが、データドリブン経営の第一歩です。
最後に:「科学的なアプローチ」でWebを見つめ直そう!
分析化学からWeb解析に転身して学んだ最も大きなことは、「データは万能ではない」ということです。
化学では「測定誤差」「系統誤差」といった概念があり、データの限界を理解した上で結論を導きます。Web解析でも同じで、アクセス解析の数字にも限界があります。でもその限界を理解しているからこそ、データを正しく活用できる。
データドリブン経営が注目される今こそ、一度立ち止まって「自社にとって本当に必要な指標は何か」を科学的に考え直してみませんか?
私のようにWeb解析士の資格取得を目指すのも一つの方法ですが、資格の有無よりも「仮説を立てて検証する」という科学的なアプローチが、きっとあなたの会社のデジタル戦略を変えてくれるはずです。