
なぜ化学者の私がWebエンジニアになったのか?〜化学的思考がWebに活かせる3つの理由〜
この記事のまとめ
大手化学メーカーで7年間研究開発に従事した私が、なぜWebエンジニア・デザイナーに転身したのか。そして化学研究で培った化学的思考が、実はWeb業界において強力な武器になることを実体験を交えてお話しします。
この記事のポイント
- ⚡化学研究の「仮説検証サイクル」がWeb改善施策に直結する理由
- ⚡実験データ分析のスキルがWebアナリティクスで威力を発揮
- ⚡化学者特有の緻密性と品質管理思考がクライアントワークで評価される背景
- ⚡異業種転職で見えた、両業界に共通する本質的な問題解決アプローチ
突然ですが、私は元々化学者でした。東京科学大学(旧:東京工業大学)で6年間化学を学び、所属した研究室では触媒化学とバイオマスに関する研究を行い、新卒で入社した大手化学メーカーでは7年間、研究開発に携わっていました。
「なぜ化学者がWebの世界に?」
この質問をよく受けます。確かに一見すると全く異なる分野に見えるかもしれません。しかし実際にWeb業界で働いてみると、化学研究で身につけた思考法やスキルが驚くほど活かせることがわかったのです。
今回は、私がなぜ化学者からWebエンジニアに転身したのか、そして化学的思考がどう活かせるのかを、具体的な事例とともにお話しします。
転職のきっかけ:HSPという気づきと新しい働き方への模索
まず、なぜ私が化学業界を離れることになったのかをお話しします。
化学メーカーでの7年間は決して無駄ではありませんでした。プロジェクトリーダーとして後輩の指導も経験し、会社での立ち位置も確立されつつありました。しかし、組織の古い考え方や会社の方針と自分の価値観との間にギャップを感じるようになったのです。
転職を決意した大きな要因の一つは、自分がHSP(Highly Sensitive Person)であることに気づいたことでした。周囲の目を気にしすぎたり、自己表現がうまくできなかったりする特性が、大企業の環境では生きづらさにつながっていました。また、もともと肌が弱く、化学物質を扱う環境での体調面の不安もありました。
そんな時、大学時代の友人からWeb系企業の共同経営者にならないかという誘いを受けました。全く未経験の分野でしたが、「人に寄り添う仕事がしたい」「より直接的にクライアントの課題解決に関わりたい」という思いから、思い切って飛び込むことにしたのです。
化学的思考がWeb業界に活かせる3つの理由
では、化学研究の経験がWeb業界にどう活かされているのか、3つの具体的な理由をご紹介します。
1. 仮説検証サイクルによる継続的な改善アプローチ
化学研究での経験
化学研究では「仮説を立てる→実験で検証する→結果を分析する→新たな仮説を立てる」というサイクルが基本です。例えば、触媒の活性を向上させたい場合、「この元素を添加すれば反応効率が上がるはず」という仮説を立て、実際に合成・評価を行います。結果が期待通りでなければ、なぜうまくいかなかったのかを分析し、次の実験設計に活かします。
Web業界での応用
この思考法は、Webサイトの改善施策にそのまま応用できます。
実際の事例をご紹介します。あるECサイトのコンバージョン率改善プロジェクトで、「商品詳細ページの画像を大きくすれば、購買意欲が高まるのではないか」という仮説を立てました。
化学者時代の癖で、単純に画像を大きくするだけでなく、以下のような要因も同時に検討しました:
- 画像の解像度と読み込み速度の関係
- 画像サイズと他のUI要素とのバランス
- モバイル端末とデスクトップでの表示の違い
A/Bテストを実施した結果、画像を大きくした場合、デスクトップではコンバージョン率が15%向上しました。しかし、モバイルでは逆に3%低下していることも判明。この結果を受けて、「デバイス別に最適な画像サイズがあるのではないか」という新たな仮説を立て、さらなる改善を行いました。
このように、一つの施策で満足せず、常に「なぜその結果になったのか」を分析し、次の改善につなげるアプローチは、まさに化学研究で培った思考法そのものです。
2. データ分析に対する慣れ親しみと多角的な視点
化学研究での経験
化学研究では様々な分析機器を使ってデータを取得します。GC, GC-MS, LC, LC-MS, NMR, IR, XRDなど、それぞれ異なる原理で物質の性質を調べ、複数のデータを組み合わせて総合的に判断します。一つのデータだけでは見えない現象も、複数の角度から見ることで真実が見えてきます。
また、実験データには必ずノイズや誤差が含まれるため、データの信頼性を評価し、統計的に意味のある結論を導く訓練を積んでいます。
Web業界での応用
この経験は、Webアナリティクスにおいて非常に有効です。
例えば、あるコーポレートサイトのお問い合わせ数が減少したケースがありました。多くの人はGoogle Analyticsのセッション数やページビュー数だけを見がちですが、以下のようなデータも多角的に確認することが重要です:
- Search Consoleでの検索順位変動
- ヒートマップツールでのユーザー行動
- フォームの入力完了率
- 流入元別のコンバージョン率
- 競合サイトの動向
結果、問題はアクセス数の減少ではなく、お問い合わせフォームのエラー発生率が急増していることが判明しました。システムアップデート後に特定のブラウザでエラーが発生するようになっていたのです。
単一指標だけでなく、複数のデータソースを組み合わせて問題の本質を探る姿勢は、化学分析の経験があってこそだと感じています。
3. 緻密性と品質管理思考によるクライアントワークの差別化
化学研究での経験
化学メーカーにとって品質管理は極めて重要です。わずかな不純物でも製品の性能や品質に大きく影響するため、製造プロセスの各段階で厳密な管理が必要でした。
また、研究結果は論文や特許として発表するため、データの信頼性や再現性に対して非常に厳しい基準が求められます。「なんとなくうまくいった」では通用せず、なぜそうなったのかを論理的に説明できなければなりません。
Web業界での応用
この緻密性と品質管理の思考は、クライアントワークにおいて大きな差別化要素となっています。
具体的には以下のような場面で活かされています:
コーディング品質の担保
- W3C準拠のマークアップ
- アクセシビリティガイドラインの遵守
- 複数ブラウザでの動作検証
- パフォーマンス最適化の実施
プロジェクト管理
- 要件定義の段階での詳細な確認
- デザインカンプとコーディング結果の精密な照合
- テスト項目の網羅的な設定
- 納品前の多段階チェック
クライアントとのコミュニケーション
- 提案の根拠となるデータの提示
- 施策の効果測定方法の事前設計
- 問題が発生した際の原因究明と改善策の論理的説明
あるクライアント様からは「他の制作会社とは説明の説得力が違う」「なぜそうするのかが明確で安心できる」というお言葉をいただいています。これは、研究者時代に培った「根拠に基づいて論理的に説明する」習慣の賜物だと感じています。
両業界に共通する本質:課題解決への情熱
化学研究とWeb開発・Web制作、一見異なる分野に見えますが、実は共通する本質があります。それは「課題解決への情熱」です。
化学研究では、社会課題(環境問題、エネルギー問題など)を化学技術で解決しようとします。Web開発・Web制作では、クライアントのビジネス課題をデジタル技術で解決しようとします。使う手段は違えど、「誰かの困りごとを解決したい」という根本的な動機は同じなのです。
私がWebの世界で特に魅力を感じるのは、課題解決の結果がより直接的に見えることです。化学研究では成果が実用化されるまで長い時間がかかりますが、Webの世界では数週間〜数ヶ月で効果を実感できます。クライアント様から「売上が上がった」「お問い合わせが増えた」という声をいただけるのは、研究者時代にはなかった喜びです。
HSPだからこその共感力
私がHSPであることは、実はWebの世界においてメリットになっています。
HSPの特性である「相手の気持ちを敏感に察知する」「細かい変化に気づく」「深く考える」といった特徴は、クライアント様のニーズを的確に把握し、ユーザー目線に立ったプロダクトをご提供する上で大きな強みとなっています。
また、自分自身がHSPとして生きづらさを感じてきた経験から、同じような悩みを持つ方々に寄り添うサービスも提供していきたいと考えています。将来的には、HSCの子供を育てる親御さん向けのサポートツールや、肌が弱い方向けの情報サイトなども手がけていく予定です。
今後の展望:化学的根拠に基づくWeb開発・Web制作の確立
現在、私は「共感力で化学反応を起こすWebクリエイター」という独自のポジションの確立を目指しています。
具体的には:
- A/Bテストの設計と統計的有意性の評価
- ユーザビリティテストの科学的手法の導入
- データドリブンなデザイン改善提案
- 仮説検証サイクルによる継続的サイト改善
これらのアプローチにより、単なる「見た目の良いサイト」ではなく、「確実に成果につながるサイト」の制作を追求しています。
化学者時代の経験を活かし、クライアント様のビジネス成長に貢献できるWebエンジニア・デザイナーとして、これからも歩み続けていきたいと思います。
ご興味をお持ちいただけましたら、お気軽にこちらからお声がけください。あなたのビジネス課題を化学者ならではのアプローチで解決するお手伝いをさせていただきます。